代表幹事ご挨拶


日本臨床補助人工心臓研究会(Japanese Association for Clinical Ventricular Assist System: JACVAS)は、1995年に川島康生先生を代表幹事として設立され、以後27年間に渡り、名称の通り、極めて重症な心不全に対して、今や確立した治療法となった人工心臓の発達に歩みを合わせ、それに関連する医療人の教育と研修、我が国のデータベースの集積等を行って来ました。

当研究会の設立当初は心臓移植の臨床が国内で開始されていませんでしたので、bridge to recovery (BTR)を目的とした体外設置型左心補助人工心臓(Left ventricular assist device: LVAD)しか臨床応用されていませんでした。しかし、199710月「臓器の移植関する法律」が制定された後、19992月の国内初の心臓移植はノバコア植え込み型LVAD®からの、同年5月の国内2例目は体外設置型ニプロLVAD®からのbridge to transplantBTT)であり、体外設置型LVADBTTに適用拡大されました。現在では心臓移植到達患者の90%以上がBTT症例であり、LVADは長年に渡り、心臓移植を支えてきました。特に2011年に非拍動流植え込み型LVADが認可され、血液ポンプが小型かつ長期耐久性に富んだものとなり、心臓移植までの平均待機期間が4年を過ぎる現在において、LVADは必要不可欠な存在となっています。

改正臓器移植法が施行され、2011年には国内初の小児から小児への心臓移植が実施され、2018年からは国内心臓移植者数が海外心臓移植者数を上回るようになりました。20158月に体外式小児用VADであるEXCOR Pediatricが保険収載され、総件数は100件を超え、小児の重症心不全治療も大きく変革しました。体格の大きな小児ではJarvik 2000®HVAD®、さらにはHeartMate 3®が装着されるようになり、小児でも在宅管理や復学が可能になりきました。

一方、永久使用目的の長期在宅LVAD治療(Destination therapy: DT)も20215月に保険収載され、202268日までに33例にDTが施行されました。本来の高齢者(65歳以上)は7例で、現時点ではbridge to candidacy目的の症例が多い状況ですが、今後割合も変化するものと思われます。

長年心原性ショックには、体外設置型ニプロLVAD®が使用されてきました。しかし、20179月に経皮型LVADImpella®が、20219月から動圧浮上非接触回転型ディスポ遠心血液ポンプであるBiofloat-NCVC®が保険償還されたのを契機に、心原性ショックに使用するLVADについても、患者の状態や体格に応じた機種の選択を行うようになってきました。

また、管理制度の面にも大きな変革があり、LVAD実施施設に加えて、LVAD管理施設が制度化され、循環器内科医がLVAD管理医として重要な役割を演じるようになってきました。

 

日本臨床補助人工心臓研究会は、名称の通り、極めて重症な心不全に対して、今や確立した治療法となった人工心臓を適正に使用する技術や知識を普及させ、患者さんが日本中で広く治療が受けられることを目標にしています。そのために、今後とも、医師(心臓血管外科医、循環器内科医)、看護師、臨床工学技士、薬剤師などの教育・技術研修などを行い、一般社団法人となった「補助人工心臓治療関連学会協議会」と連携して、わが国での補助人工心臓治療法の体制整備・インフラ整備に貢献していく所存です。継続して、JACVASセミナーと、日本小児循環器学会と共催の小児用補助人工心臓セミナーを実施していく予定です。また、進歩し続けている人工心臓による治療をより安全で、長期間にわたり安心できるものとするための研究支援・普及事業に努力して参ります。御支援をお願い申し上げます。

令和4年7月

代表幹事 福嶌 教偉