植込型補助人工心臓の使用に係る体制等の基準案について


平成23年1月

 

平成22年11月16日に提言された植込型補助人工心臓の使用に係る体制等の基準案を添付いたします。この基準案は、下記に示します関係学会等からのメンバーによる植込み型人工心臓に係る体制等の要件策定委員会および補助人工心臓治療関連学会協議会により、今後の植込型補助人工心臓における診療指針となるべきものとして検討されてまいりました。そして、昨年秋には関係学会の総意として「植込型補助人工心臓」実施基準(案)として纏められました。今回、この実施基準(2010.11.16案)に定められた実施施設認定基準および実施医基準により認定作業が行われることになりましたので、参考資料として公開いたします。

 

補助人工心臓治療関連学会協議会 代表 許 俊鋭

副代表 中谷武嗣

 

平成22年11月16日

 

植込型補助人工心臓使用基準等の策定につきましては、平成20年3月に植込み型人工心臓に係る体制等の要件策定委員会から基準案を提言させていただきました。その後、要件策定委員会は補助人工心臓治療関連学会協議会として再組織され、その後2年間、植込型補助人工心臓について患者さん・ご家族のご希望や医療関係者の意見を集約してまいりました。

 

その結果、平成20年3月の要件策定委員会基準案の中で、実施施設認定基準並びに実施医認定基準を一部手直しさせていただき、改めて関連学会の総意として別紙「植込型補助人工心臓実施基準」を提言させていただきました。

 

 

植込み型人工心臓に係る体制等の要件策定委員会(~2008.3.31) 代表
前日本胸部外科学会理事長 松田  暉
日本胸部外科学会監事 (座長) 許  俊鋭
補助人工心臓治療関連学会協議会(2008.4.1~現在)                             代表 許  俊鋭
                                                                                                                      副代表 中谷 武嗣
各関係学会代表  
日本胸部外科学会理事長 田林 晄一
日本心臓血管外科学会理事長 高本 眞一
日本人工臓器学会理事長 富永 隆治
日本循環器学会理事長 松崎 益徳
日本心臓病学会理事長 鄭  忠和
日本心不全学会理事長 和泉  徹
日本臨床補助人工心臓研究会代表幹事 北村惣一郎
日本心臓移植研究会代表幹事 松田  暉

「植込型補助人工心臓」実施基準(2010.11.16案)

[1. 適応基準]

疾患・病態 心臓移植適応基準に準じた末期的重症心不全で、対象となる基礎疾患は,拡張型および拡張相肥大型心筋症、虚血性心筋疾患、弁膜症、先天性心疾患、心筋炎後心筋症などが含まれる.



心機能 NYHA:クラスⅢ-Ⅳ(Ⅳの既往あり)
ステージ D  (重症の構造的疾患があり、最大限の内科治療にもかかわらず、安静でも明らかな心不全症状がある患者)
薬物治療 ジキタリス・利尿薬・ACE阻害薬・ARB・硝酸塩・β遮断剤などの最大限の治療が試みられている
強心薬・補助循環 ドブタミン・ドーパミン・エピネフリン・ノルエピネフリン・PDEⅢ阻害薬などに依存、またはIABP、体外設置型補助人工心臓などに依存
年齢 65歳以下が望ましい( 身体能力によっては65歳以上も考慮する)
BSA システムにより個別に規定
血行動態 stage D, NYHAクラスⅣの既往
条件 他の治療では延命が望めず、また著しくQOLが障害された患者で、治療に参加することで高いQOLが得られ、長期在宅治療が行え、社会復帰が期待できる患者
治療の理解 補助人工心臓の限界や併発症を理解し、家族の理解と支援が得られる



感染症 重症感染症
呼吸器疾患 重度のCOPD
高度の肺高血圧症
30日以内に発症した肺動脈塞栓症
循環器疾患 開心術後早期(2週間程度)
治療不可能な腹部動脈瘤や重度の末梢血管疾患
胸部大動脈瘤、心室瘤、心室中隔破裂
中等度以上の大動脈弁閉鎖不全症
胸部大動脈に重篤な石灰化
神経障害 重度の中枢神経障害
薬物中毒またはアルコール依存の既往
プロトコールに従えない、あるいは理解不能と判断されるほどの精神神経障害
その他の臓器不全 重度の肝臓疾患
重度の出血傾向、高度慢性腎不全、慢性腎不全による透析症例、 癌などの生命予後不良な悪性疾患、膠原病などの全身性疾患、 インスリン依存性重症糖尿病 
妊娠 妊娠中
その他 著しい肥満、輸血拒否など施設内適応委員会が不適当と判断した症例
[2. 実施施設認定基準]
(1) 心臓血管外科を標榜している心臓血管外科専門医認定修練基幹施設で、開心術の症例が年間100例以上ある。
(2) 補助人工心臓の装着手術が過去5年間に3例以上あり、内1例ではその後連続して90日以上の管理を行い、その間にベッド外でのリハビリを行った経験がある。
(3) 心臓移植実施認定施設あるいは実施認定施設と密接に連携を取れる施設である。なお、連携とは、適応判定、植込型補助人工心臓装着手術ならびに装着後管理の指導ならびに支援が受けられる条件にあることを意味する。
(4) 補助人工心臓(体外設置型)に関する施設基準を満たし、体外設置型補助人工心臓による緊急時の装着がいつでも施行可能である。
(5) 植込型補助人工心臓装着手術実施医基準を満たす常勤医が1名以上いる。
(6) 所定の研修を終了している医療チーム(医師(循環器内科を含む)、看護師、臨床工学技士を含む)があり、人工心臓管理技術認定士が1名以上いる。
(7) 補助人工心臓装着の適応を検討する施設内委員会があり、補助人工心臓装着患者を統合的に治療・看護する体制が組まれている。
(8) 補助人工心臓装着患者の在宅治療管理体制が組め、緊急対応が取れる。
(9) 施設認定を申請する段階でJapanese registry for Mechanically Assisted Circulatory Support(J-MACS)への参加に同意を示すこと。
(10) 補助人工心臓治療関連学会協議会植込型補助人工心臓実施基準管理委員会における認定・評価を受けること。なお、評価を受けることの同意、並びに、評価にて重大な問題点を指摘された場合には、管理中の患者に不利益が生じないよう然るべき措置を速やかにとることに同意を示すこと。
[3. 実施医基準]
(1) 心臓血管外科専門医、または日本胸部外科学会指導医、または日本心臓血管外科学会国際会員である。
(2) 日本胸部外科学会、日本心臓血管外科学会、日本人工臓器学会に所属している。
(3) 使用する植込型補助人工心臓システムについての研修プログラムを受講している。
(4) 術者または指導的助手として3例以上の補助人工心臓装着手術経験を持つ。
(5) 上記基準に基づき、補助人工心臓治療関連学会協議会植込型補助人工心臓実施基準管理委員会による認定を受けている。



[4. 在宅治療安全管理基準](付録参照)
(1) 在宅治療体制 補助人工心臓を扱う病院医療チームをはじめ患者自宅復帰の実現に向けて体制整え、在宅経過観察基準を整えること。
(2) 患者・介護者の遵守事項 患者および介護者の遵守事項を定めること。
(3) 退院許可基準 住宅条件を含めた退院許可基準を定めること。
(4) 緊急時の対応 在宅時における緊急時の患者、介護者および病院の対応方法を明らかにするとともに、必要な機関(消防等)への協力要請を行うこと。
24時間対応が可能であること
(5) 機器モニタリング 在宅時の患者および機器のモニタリング方法を整えること。
(6) 機器保守点検 機器の保守点検法を整えること。
(7) トラッキング 治療成績評価のためレジストリー(*)を構築すること。

(*)「埋め込み型補助人工心臓のトラッキング医療機器分科会事業」によるレジストリー(J-MACS)はすでに成立し登録が始まっている。新たな植込型補助人工心臓実施施設はそれに参加すること。

 

[付帯事項]
基準の見直し この基準は3年毎に見直す

 

(付録) [在宅治療安全管理基準]に関する内容説明

(1) 人工心臓を扱う病院医療チームをはじめ患者自宅復帰の実現に向けて体制(参考資料1)整え、在宅経過観察基準(参考資料2)を整えること。
  1. 患者に対する在宅自己管理法 (患者自身が毎日記録し留意すべき事項)を指導し、患者の自己管理の重要性を教育するとともに、その実践に習熟すること。また異常を認めた場合は担当医(或いは担当チームメンバー)に連絡相談すること。
  2. 植込型VAS管理について研修セミナーを受講した担当医(或いは担当チームメンバー)が毎週患者に面接し以下の項目をチェックしカルテ及び患者日誌に記録し、異常値がみとめられた場合はVAS植込み実施チームに連絡すること。この際、デバイス安全管理チェックを同時に行う。
  3. VAS植込み実施施設(VAS植込み実施チーム)は以下の項目を毎月チェックし、有効かつ安全なデバイス補助が実施されていることを確認する。 VAS植込み実施施設(VAS植込み実施チーム)は6ないし12ヶ月ごとに必要な検査項目をチェックし、植込型VAS治療の進行状況を評価し、機器の安全性と有効性を確認する(機器管理は除く)。
  4. 製造販売業者の協力のもとに病院は、日常的なケア法や機器取扱法、突発的トラブルへの対処法などの、患者及び介護者への訓練プログラムを定めること。
(2) 患者および患者の在宅介護を行う者(介護者)の遵守事項を定めること。
患者および患者の在介護者は以下の項目を遵守すること。
  1. 病院で実施する訓練プログラム(使用方法、使用上の注意)の指導に従うこと。
  2. 患者は緊急連絡先や応急処置等を記載した患者カードを携帯すること。
  3. 患者自身による乗り物の運転を禁止する。車に同乗する場合は、シートベルトがケーブルや体外機器に接触しないようにすること。
  4. 患者の航空機および船舶への搭乗については、運航会社および病院と相談すること。
  5. 患者は禁酒・禁煙とする。
  6. 患者にはリスクを伴う過激なスポーツを禁止する。
(3) 住宅条件を含めた退院許可基準を定めること。
  1. 介護者は患者と同居が望ましい。
  2. 介護者は患者のケアを行い、緊急時には通報すること。
  3. 患者及び病院は、自宅の安全確認・住宅環境整備を行うこと。
(4) 在宅時における患者、介護者および病院の緊急時の対応
  1. 患者及び病院は、退院時に必要な機関(消防等)への協力要請を行うこと。
  2. 患者は、就学時や就労時には、介護者がいない環境における安全確認を病院の指導に基づき行うこと。
  3. 24時間対応が可能であること
(5) 在宅時の患者および機器のモニタリング方法を整えること。
  1. 回転数、消費電力等のポンプ動作状態を患者自身が確認できること。
  2. 体内機器に異常があれば警報を発し、内容を患者自身が確認できること。
  3. バッテリ残量を患者自身が確認できること。
(6) 機器の保守点検・修理等の機器管理法を整えること。
  1. 取り外しできる機器について、定期点検・交換の時期と項目を定めること。
  2. 製造販売業者または機器管理業者は、保守・修理を病院管理のもとで行うこと。
    皮膚貫通部・貫通ケーブルの管理を行うこと。
(7) 治療成績評価のためのレジストリー(J-MACS)に参加すること。
  1. 製品情報と連結される個人情報(患者・介護者の氏名・住所等)の管理は厳正に行うこと。
  2. 「埋め込み型補助人工心臓のトラッキング医療機器分科会事業」によるレジストリー(J-MACS)に参加すること。
  3. 機器使用終了時の取扱いおよびレジストリー参加について、患者・家族の意志確認を行うこと。

(参考資料 1) 在宅治療安全管理基準の遵守に必要な体制のまとめ

人工心臓を装着した患者の自宅復帰の実現に向けて、下記の人員・設備体制及び機器管理体制を整えること、治療成績評価のためのレジストリーの構築が必要と考えられる。

(1) 人員・設備体制
  1. 人工心臓を扱う診療体制を整える。外科医、内科医、人工心臓管理技術認定士、看護師、臨床工学技士等からなるチーム医療体制を構築する。
  2. 基本的に患者と同居し患者の介護を行うもの(介護者)を含めて、退院後人員体制を整え、通院条件を定める。植込型人工心臓の管理は在宅介護と通院を基本とする。
  3. 自宅復帰トレーニングの手順を定め、トレーニングコースを設定する。外出、外泊、自宅復帰といった段階的手順を踏むことが望ましい。
  4. 住宅条件を含めた退院許可条件を定める(通院時間、緊急車両アクセス、寝室電源等)。日常の使用時にも緊急時にも適した住宅構造であることを確認する。
  5. 緊急時対応を定め、必要な機関(消防等)へ必要な協力要請を行う。
(2) 機器管理体制
  1. 患者及び機器のモニタリング項目を定める。機器モニタには、消費電力、電池残量、血流量、脈拍、体温等のうちから必要な計測項目が表示されていること。
  2. 機器保守・修理の条件と手順を定める。これを定めるにあたっては、製造販売業者から提供される耐久性試験等の機器信頼性に関する情報や、警報を含む人的要因の項目等も勘案すること。
(3) レジストリー構築
  1. 「埋め込み型補助人工心臓のトラッキング医療機器分科会事業」によるレジストリー(J-MACS)に参加すること。

(参考資料2) 在宅経過観察基準の例

  実施者 頻度 内容 その他
(1) 自己管理 患者自身が毎日記録し留意すべき事項 患者 毎日 (ア) 全身状態に関する項目
(イ) 血行動態に関する項目
(ウ) 抗凝固療法に関する項目
(エ) 感染に関する項目
(オ) ドライブラインに関する項目
(カ) 投薬内容に関する項目
(キ) 禁止項目の遵守確認
異常を認めた場合は担当医(或いは担当チームメンバー)に連絡相談すること。
(2) かかりつけ担当医の診察

研修セミナーを受講した担当医(或いは担当チームメンバー)が担当
担当医
(或いは担当チームメンバー)
1回/週 (ア) 全身状態のチェック
(イ) 血行動態のチェック
(ウ) 抗凝固療法のチェック
(エ) 感染チェック
(オ) ドライブラインのチェック
(カ) 投薬内容・状況の確認
異常を認めた場合は患者ならびにVAS植え込み実施チームに連絡する。
機器の安全管理チェックを同時に行う。
(3) VAS植込み実施施設での診察
(実施医またはVAS植込み実施チーム)が担当
VAS植込み実施チーム 1回/月 (ア) 全身状態に関する項目
(イ) 血行動態に関する項目
(ウ) 抗凝固療法に関する項目
(エ) 感染に関する項目
(オ) 投薬内容に関する項目
(カ) 心臓移植登録状況の確認
有効かつ安全なデバイス補助が実施されていることを確認する。
(4)VAS治療成績評価
レジストリー入力
(植込型補助人工心臓実施施設)
VAS植込み実施チーム 1回/6-12月 (ア) 全身状態に関する項目(6分間歩行能力またはCPXなど)
(イ) 血行動態に関する項目(心エコー図)
(ウ) QOL(SF-36, EuroQolなど)、精神神経機能評価(MMSE, TMT-Bテストなど)
(エ) その他の検査(頭部CT検査、胸部CT検査)
植込型VAS治療の進行状況を評価し、機器の安全性と有効性を確認する(機器管理は除く)

VAS植込み実施施設が(2)を担当してもよい。
チームメンバーには、人工心臓管理技術認定士、看護師、臨床工学技士が含まれる。