小児用補助人工心臓実施基準及び適正使用基準


平成27年7月14日

 

補助人工心臓治療関連学会協議会においては、小児用補助人工心臓として医師主導治験が進められている体外設置システムのEXCOR Pediatricsの早期導入に向けて、Working Groupにおいて実施基準及び適応基準の作成を進めてきました。その検討を踏まえ、本年第1回の委員会(平成27年6月9日開催)を経て、実施基準(案)および適応基準(案)を作成しました。

その後、本年6月12日に開催されました薬事・食品衛生審議会 医療機器・体外診断薬部会での審査に向けて、小児用補助人工心臓実施基準(案)および適応基準(案)を本協議会基準案として提出しました。医療機器・体外診断薬部会の審議を踏まえ、今回提示します小児用補助人工心臓実施基準及び適正使用基準を作成しました。

今回提示します基準に則り、小児用補助人工心臓の臨床応用が円滑に進むものと考えています。なお、近日中にこの基準に従い小児用補助人工心臓実施施設・実施医認定申請を公募します。

 

補助人工心臓治療関連学会協議会

代表 許 俊鋭

副代表 中谷武嗣

小児用補助人工心臓実施基準


平成27年7月10日

1. 実施施設について

本治療機器は心臓移植へのブリッジ治療を目指すことを原則とするために、小児心臓移植を実施できる施設、あるいはそれに準じた小児重症心不全に対する高度な治療を実施できる施設において使用されることが望ましい。心臓移植実施施設でない場合には、登録を行う心臓移植実施施設と密接な連携を取ることによって、本医療機器が装着された患者に不利益が生じないことが重要である。

2. 実施施設の基本基準

  1. 心臓血管外科又はそれに準じる診療科を標榜している病院であること。

  2. 所定の研修を終了している医療チーム(小児循環器内科を含む医師、看護師、臨床工学技士を含む)があり、小児補助人工心臓装着手術実施医基準を満たす常勤医が1名以上、小児循環器専門医が1名以上、人工心臓管理技術認定士または人工心臓管理技術認定士(小児体外式)が1名以上いる。

  3. 補助人工心臓装着の適応を検討する施設内委員会があり、補助人工心臓装着患者を統合的に治療・看護する体制が組まれている。

  4. 心臓移植実施認定施設、又は心臓移植実施認定施設と密接に連携を取れる施設である。なお、連携とは、適応判定、補助人工心臓装着手術、装着後管理、離脱判定に関する指導並びに支援が受けられる条件にあることを意味する。

  5. 施設認定を申請する段階で補助人工心臓治療関連学会協議会が定める実施症例に関する登録制度への参加に同意を示すこと。

  6. 補助人工心臓治療関連学会協議会における認定・評価を受けること。なお、評価を受けることの同意並びに、評価にて重大な問題点を指摘された場合には、管理中の患者に不利益が生じないよう然るべき措置を速やかにとることに同意を示すこと。

  7. 当該手術を行うために必要な次に掲げる検査等が、当該保険医療機関内で常時実施できるよう、必要な機器を備えていること。

     ア 血液学的検査
     イ 生化学的検査
     ウ 画像診断

3. 以下に示す施設基準をすべて満たすことが必要である

  1. 心臓血管外科又はそれに準じる診療科を標榜している心臓血管外科専門医認 定修練基幹施設(*)で、18歳未満の心臓手術50例を含む心臓血管手術年間症例が 100例以上ある。
  2. 常勤の心臓血管外科の医師が3名以上配置されており、このうち2名以上は心 臓血管外科の経験を5年以上有していること。
  3. 11歳未満における機械的循環補助(補助人工心臓、左心バイパスあるいは左 心系脱血を伴うECMOの装着)を最近5年間で3例以上経験している。
    (*:新専門医制度に移行する場合には、再検討とする。)

4. 小児補助人工心臓装着手術実施医基準

以下に示す実施基準をすべて満たすことが必要である。

  1. 心臓血管外科専門医、または日本胸部外科学会指導医、または日本心臓血管 外科学会国際会員である。 
  2. 日本小児循環器学会、日本人工臓器学会、日本胸部外科学会、日本心臓血管 外科学会のすべてに所属している。 
  3. 所定の研修を終了し、かつ、本補助人工心臓システムについての研修プログ ラムを受講している。 
  4. 術者または指導的助手として、補助人工心臓、左心バイパスあるいは左心系 脱血を伴うECMOの3例以上の装着経験を有する。且つ、少なくとも1例以上の補助 人工心臓植え込み術の経験がある。 
  5. 上記基準に基づき、補助人工心臓治療関連学会協議会による認定を受けてい る。

 

補助人工心臓治療関連学会協議会

〒112-0004 東京都文京区後楽2-3-27 テラル後楽ビル1F

特定非営利活動法人日本胸部外科学会 内

 

更新日:2017.05

小児用補助人工心臓適正使用基準


平成27年7月10日

 

小児用体外設置式補助人工心臓システムは、以下の使用目的で使用するものとして承認された。

  • 本品は、従来の投薬治療、外科手術及び補助循環では症状の改善が見込めない小児の重症心不全患者であって、本品による治療が当該患者にとって最善であると判断された患者に対して、心移植に達するまで又は心機能が回復するまでの循環改善を目的に使用される。

本基準は、小児用体外設置式補助人工心臓の適正使用に関する補助人工心臓治療関連学会協議会の考え方を示す。

1. 基本方針

心臓移植までのブリッジを目指すため(Bridge to transplantation:BTT)の循環補助を必要とする小児の重症心不全患者を対象とする。

なお、BTTとして適応した後、循環補助を行うことで自己心機能が改善し、離脱することは妨げない。しかし、適応検討時に離脱の可能性を判断することは困難であり、装着時はBTTとして適応判定された症例が対象となる。

2. 対象疾患

心臓移植適応となる疾患が対象となり得る。
心筋症 心筋炎 虚血性    心疾患 

先天性 心疾患 難治性不整脈 その他

3. 症例の選択基準

  1. 心臓移植実施認定施設においては、補助人工心臓装着の適応を検討する施設内委員会があり、心臓移植適応を検討する施設内委員会での検討も含め、補助人工心臓装着および心臓移植の「適応」の判定が得られていること。
  2. 心臓移植実施認定施設以外においては、補助人工心臓装着の適応を検討する施設内委員会において「適応」の判定が得られているとともに、関連する心臓移植実施認定施設の移植適応を検討する委員会でも、「適応」の判定が得られていること。

 

かつ、以下の選択基準を満たし、除外基準を有しないことを確認する。

 

1)体格について

体重3kg以上、且つ修正在胎週数が37週以降

2)重症心不全について、以下のいずれかを満たす場合

最大限の心不全治療にも関わらずNYHA Ⅳ度相当が持続し、強心薬に依存、かつ全身臓器機能が進行性に増悪している。

劇症型心筋炎などで、既に救命的補助循環が装着されており、離脱困難。

治療不能な致死的不整脈が持続。

4. 症例の除外基準

心臓移植の適応除外条件を含む次の除外基準のいずれかに該当する場合には、装着することができない。

  1. 循環器疾患
    人工心肺離脱困難例
    中等度以上の大動脈弁閉鎖不全
    修復されていない大動脈縮窄、大動脈瘤
    解剖学的理由により技術的に心臓移植が困難な症例

  2. 心臓以外の臓器合併症
    重度の中枢神経障害
    開心術により再発の可能性が高い急性脳卒中、又は出血のリスク増加を 伴う先天性の中枢神経系、奇形症候群(動静脈奇形、モヤモヤ病など) を有する
    肝臓の不可逆的機能障害
    腎臓の不可逆的機能障害
    活動性感染症
    肺血管低形成、肺静脈異常
    悪性腫瘍
    後天性免疫不全症候群
    血液疾患:中等症以上の血友病、溶血疾患、凝固異常

  3. 以下に示す特殊な状況
    妊娠中
    小児であるにもかかわらず喫煙歴や飲酒歴がある
    将来の自己管理が難しいと考えられる症例

  4. 以下の示す治療経過が含まれる状況
    48時間以内の30分以上の心肺蘇生
    永続的腎機能障害のため血液透析又は腹膜透析を受けている。
    人工呼吸器から離脱が困難な内因性の疾患
    活動性のヘパリン起因性血小板減少症など抗凝固療法/抗血小板療法が禁忌 の状態にある。

  5. その他医師が装着不適当であると判断する医学的・社会的理由。

5. 以下に示す状況がある場合には、装着に関して慎重に判断する。

長期のECMOによる補助を受けている

肝機能障害

腎機能障害

糖尿病

進行性の神経筋疾患

 (骨格筋病変が軽く、心筋症が病像の主体であり、心筋症そのものが生命予後を左右する症例のみ適応を検討する)

慢性肺疾患を含めた呼吸器疾患

 治療を要するCLDは適応から除外

精神神経症又は行動障害(反社会性障害など)

 安全な装着を継続できない可能性が高い場合

中枢神経障害の程度を評価できない場合(例先天性症候群)

全身性代謝疾患、ミトコンドリア病

膠原病

軽症の血友病

単心室血行動態の複雑心奇形に対する姑息術後

心室瘤が存在する場合

肺高血圧症(高肺血管抵抗)

6. 社会的に必要な条件

  1. 本人の理解
    15歳以上:原則として本人からのインフィームド・コンセント
    7歳から14歳:保護者の決定に同意するインフォームド・アセント
    7歳未満:可能な限りの説明努力
  2. 家族の理解
    心臓移植医療について十分な説明を受け、同意している。
    将来にわたって移植医療を受ける患者をサポートする決意がある。
    サポートできるだけの経済力がある。
    LVADを装着することでしか移植への道がない状況を理解できる。